『租税実体法の解釈と適用・2』
(小関健三)
序 税法は争えば法解釈が発展する
一.申告納税制度の本質
租税(実体)法=国家と国民との租税債権債務関係を規律する
申告納税制度=国民主権主義理念の税制面における決意の表明=租税債権を確定するのは国民
租税法=裁判規範⇔通達=上級庁の下級庁に対する指揮命令の訓令
課税庁=通達に拘束される(行組法14条2項)⇔通達が正しい法解釈とは限らない
納税者=少しでも税負担を軽くしたい
過去の判例が時代の進展によって事案に適切でなくなっている
⇒司法裁判所の判断で決着
二.審判所「裁決事例」研究の必要性
通常の判例研究
・ 判決文の理由欄の研究に終始
・ 認定事実以外の事実が研究の対象外
・ 判旨の妥当性の研究に終始
・ 自己の学問的研究の権威付けに利用
⇒裁決事例の研究
・ 裁判は弁論主義なので、原被告によって主張された事実にしか関与できないことから、前置機関である審判所の裁決事例を研究する意義がある。
・ 税法学においては未開の分野であるので法のメスを入れるのに好適である。
Ø 原処分庁の大部分が通達に依拠して答弁している。
Ø 審判所自身も原処分の「見直し機能」と考えている
Ø 訴訟裁断機能としての第三者的機関の性格が薄い
三.税法は争うことで正しい解釈が生まれる
正しい解釈=司法裁判所の判断⇒判例研究
不服申立前置主義⇒裁決事例を訴訟と関連性を持たせることにより解釈に公定力を持たせ、判例研究と同一レベルにまで引き上げることが出来る=裁決事例について法律的な視点から法解釈を加える⇒将来の訴訟において準備書面に反映できるようにする
第一篇 ■ 租税実体法の解釈方法
第一章 租税実体法の解釈方法論−その1
一 租税実体法の意義
租税実体法=特定の租税債権者(税務署長)と租税債務者(納税者)との間に、租税債権債務関係を成立させる課税要件を規定した法律
租税債務=課税要件を充足することによる生じる
課税要件=課税権者、納税義務者、課税物件、課税物件の帰属、課税標準、税率
(課税物件の例)所得税=(所得=)総収入金額−必要経費
法人税=(所得=)益金−損金
二 「課税所得」をめぐる二つの学説(「法的基準説」と「経済的基準説」
「経済的基準説」⇒課税所得=専ら経済的視角から捉える(合理的経済人)=租税公平負担
「法的基準説」⇒課税所得=法の視点から把握=租税法律主義
(松沢)租税法=外形が租税法律主義、中身が租税公平負担の原則=両説を一体として捉える
三 事実認定と税法解釈における実質主義
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実質主義 (イレギュラーな時にのみ検討される) |
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事実認定における実質主義 |
税法解釈における実質主義 |
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説 明 |
「取引の実体」と「法形式」とが一致していない場合に、「取引の実体」に合うように法形式を引き直して「事実認定」を行なうとうこと。(税法に限ったことではない) |
税法の解釈に際して、「法文の文言だけに囚われることなく」、法の目的なり意思なりを探求し、税負担の公平を図るため、経済的意義および実質に即して判断し課税するという考え方 |
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仮装行為 |
真実の法律効果を仮装した行為なので、違法性を帯びることとなるので事実認定における実質主義で否認できる |
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租税回避 |
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租税負担公平の原則の見地からは、法の規定がなくても否認が許される。租税負担公平の原則は、個々の税法規定として具体化されている場合は勿論、一般的な形ですでに税法上に内在している条理として認められるものである。 |
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同族会社の行為計算否認 |
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納税者が選択した行為計算が実在し、私法的には有効なものであったとしても、「租税回避の防止」と言う見地から行為または計算を否認し、想定されるあるべき法律関係に税法を適用する。 |
※経済的観察法=所得の経済的評価の問題。
四 法人税法一三二条と同法二二条二項との関係
(松沢)
二二条が所得金額の計算の一般原則を規定したものであるから、まずその行為計算が二二条における収益概念に包摂されるか否かを検討した後に、その行為計算を前提とする限り収益とはなりえないが、当該同族会社において、それが異常不合理な経済取引が行なわれ租税回避がなされたと認められる場合にのみ、公平負担の見地からその行為計算の否認を検討する規定が一三二条であると解すべきであろう。(『租税実体法』)(例.低廉譲渡や無利息貸付けと寄付金の問題)
五 法人税法上の所得概念と権利確定主義
法的に享受している経済的利得に対して(何が所得か)、その経済的利得を享受していると言うことが外形上確実であれば(いつ権利が生じたか)、課税しても差し支えない
(以下、租税実体法より)
・ 権利確定主義⇒収益の帰属時期を判定する法的基準⇒所得概念に投影⇒所得に法的色彩=確定された収入すべき権利−確定された履行すべき義務=所得
・ 必ずしも法律上保護されたあるべき権利でなくても(ex所有権)、経済的利得を占有管理しているというような現に在る占有管理状態(ex占有権)をも、担税力ある権利として捉え、そのような(法的)状態に至った時に課税適状にあるとしても良いのではないか。
・ 経済的利得が全て所得となるのではなく、社会的な秩序の力によって、財産権の内容をなす経済的利益がその者の継続された事実支配の裡(うち)にあって、担税力を享受していると認められるような客観的事情が備わることによって課税適状を生じ初めて所得となりうるのである。違法な形で取得された利得でも、それが利得者によって支配され、経済的評価によって財産的価値が生じているような場合には、後に返還され、または没収されるに至るまでは、その現実に生じた担税力を示す経済的利益に対し課税所得を構成しうる。(経済的利得の法的支配)
<資料>
(1)国税についての納付すべき税額の確定の方式
第十六条 国税についての納付すべき税額の確定の手続については、次の各号に掲げるいずれかの方式によるものとし、これらの方式の内容は、当該各号に掲げるところによる。
一 申告納税方式 納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつた場合その他当該税額が税務署長又は税関長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう。
二 賦課課税方式 納付すべき税額がもつぱら税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう
(2)国家行政組織法
第十四条 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。
2 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達するため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。
(3)通達のスタンス
そもそも通達は、上級行政庁の下級行政庁等に対する示達の形式であつて(国家行政組織法第一四条第二項参照)、行政の取扱の基準を示し法令の解釈を統一する等の目的をもつて発せられるもので、元来は、法規としての性質を有するものではなく、このことは国税庁長官から発せられる税務通達についても同様であるということができる。ただ、これらの通達が発せられると、下級行政庁等は、これに従つて事務を処理することとなり、長期にわたつてこれを繰り返していく場合には、この事実上の取扱が一般の法的確信を得て慣習法たる行政先例法として認めらるべき場合もあり得るのであるが、本件においては、旧通達に基く税務官庁の事実上の取扱に、右慣習法たる効力を認めるべき特段の事情の存在を肯認し得る証拠はない。したがつて、相続税法第九条の解釈に関する旧通達は、一応の行政解釈として、裁判所の解釈の参考とはなり得ても、それ以上に裁判所を拘束するものではないばかりでなく…(長崎地方裁判所昭和三五年(行)昭和三六年五月一九日)
(4)納税義務と質問検査
所得税法二三四条一項所定の質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為である(京都地方裁判所昭和六三年(行ウ)第一六号 平成七年四月二八日)
(5)納付税額の確定
所得税法はいわゆる申告納税方式を採用し、納税義務者が納付すべき税額はその者の申告により確定することを原則としているが、最終的な税額の確定は税務署長に留保され、その更正のないことを条件として当該申告が是認されるにすぎないものである。そして、税務署長は、納税の適正を期するため、常に納税者がその義務を正しく履行したか否かを調査する権限と職責を有し、申告税額がその調査したところと異なる場合には、申告税額に拘束されることなく国税通則法二四条にもとづきこれを更正しうるのであり、税務署長がいかなる場合にいかなる調査をなすべきかについて法律に特に定めるところはない。したがつて、税務署長は、過少申告なることを疑うに足りる事情の存する申告について調査しうるのは勿論であるが、かかる事情の存しない申告について調査することも何ら妨げられるものではなく、当該調査の結果過少申告であることを発見した場合には、申告税額を更正しなければならないのである。(昭和52年 6月 6日/名古屋地方裁判所/民事第9部/判決/昭和47年(行ウ)第22号の4)
(6)岩瀬事件
�@譲渡所得の計算において納税者らが行った土地取引は、補足金付交換契約に基づくものであるとの課税庁の主張が、本件取引に際して、どのような法形式、どのような契約類型を採用するかは当事者の自由な選択に任されており、本件取引の経済的な実体からすれば、本件譲渡資産と本件取得資産との補足金付交換契約という契約類型を採用した方が実体に適合しているという感は否めないとしても、譲渡所得に対する税負担の軽減を図るという考慮から本件譲渡資産及び本件取得資産の各別の売買契約とその売買代金の相殺という法形式を採用することが許されないとすべき根拠はないとして排斥された事例
�A譲渡所得の計算において納税者らが行った土地取引は、補足金付交換契約に基づくものであるとの課税庁の主張が、本件取引における当事者間の真の合意が補足金付交換契約の合意であるのに、これを隠ぺいして各別の売買契約の合意があったものと仮装したという場合であれば、隠ぺいされた真の合意において採用されている契約類型を前提として課税が行われるべきであるが、本件取引にあっては、税負担の軽減を図るという観点からして、本件譲渡資産及び本件取得資産の各別の売買契約とその各売買代金の相殺という法形式を採用することの方が望ましいと考えられたことが認められるのであるから、両者において、本件取引に際して、真実の合意としては右の補足金付交換契約の法形式を採用した上で、契約書の書面上はこの真の法形式を隠ぺいするという行為を取るべき動機に乏しく、したがって、本件取引において採用された右売買契約の法形式が仮装のものであるとすることは困難なものというべきであるとして排斥された事例
�B租税法律主義の下においては、法律の根拠なしに、当事者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引き直し、それに対応する課税要件が充足されたものとして取り扱う権限が課税庁に認められているものではないとされた事例
�C通常の場合に比較して低い価格で譲渡されたとしても、所得税法59条1項2号の適用のない以上、課税負担は後に繰り延べられることを法律自体が予定しているものであるとされた事例
(東京地裁平成十年五月一三日、東京高裁平成十一年六月二十一日、最高裁上告不受理)
(7)今村隆「租税回避行為の否認と契約解釈(1) (2) (3) (4)」税理42巻14号206頁、
15号262頁、43巻1号242頁、3号205頁(2000−2001)
(8)私法上の法律構成による否認
(違法性を帯びていない点で仮装とまではいえないが、想定されるあるべき「法律関係」を押し付けて課税する??)
課税は、私法上の行為によって現実に発生している経済効果に則してされるものであるから、第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われるが、課税の前提となる私法上の当事者の意思を、当事者の合意の単なる表面的・形式的な意味によってではなく、経済実体を考慮した実質的な合意内容に従って認定し、その真に意図している私法上の事実関係を前提として法律構成をして課税要件への当てはめを行うべきである。
したがって、課税庁が租税回避の否認を行うためには、原則的には、法文中に租税回避の否認に関する明文の規定が存する必要があるが、仮に法文中に明文の規定が存しない場合であっても、租税回避を目的としてされた行為に対しては、当事者が真に意図した私法上の法律構成による合意内容に基づいて課税が行われるべきである。(大阪高裁平成一〇年(行コ)第六五号 平成一二年一月一八日)
(9)旺文社事件
(地裁)東京地裁平成12年(行ウ)第69号法人税更正処分等取消請求事件(全部取消し)(納税者勝訴)(被告控訴)H13−11−09
�B 本件決議は、A社株主総会が内部的意思決定をしたものにほかならず、その段階では未だ増資の効果は生じていないのであって、B社が増資により資産価値を取得したとすれば、それは、法形式においては、A社の執行機関が増資を実行し、B社が新株引受人として払込行為をしたことによるものであり、そうすると、本件増資は、新株の払込みを受けたA社と有利な条件でA社から新株の発行を受けたB社の間の行為にほかならず、原告はB社に対して何らの行為もしていないのであって、被告の主張する、経済的価値の移転を生ずる「無償供与」としての行為の存在が直接的には認められず、同行為を擬制するに足りるだけの根拠がないにもかかわらず、あえて無理な擬制をして結論を導いているものといわざるを得ず、実質的にみて、原告の保有するA社株式の資産価値がB社に移転したとしても、それが原告の行為によるものとは認められないから、同資産価値の移転が原告の行為によることを前提としてこれに法人税法22条2項を適用すべ きである旨の被告の主張には理由がない。
�C 法人税法132条を適用すべき旨の被告の主張は、原告自らの行為によりその保有するA社株式の資産価値がB社に移転したとの事実を前提として、その資産価値の移転に法132条を適用して課税しようとするものであるが、その価値の移転が原告自らの行為によるものとは認められないことは上記3に判示のとおりであり、被告の主張には理由がないことは明らかである。また、現にされた行為は、普通採ったであろう行為計算のうちのひとつと比較した場合において、何ら法人税を減少させるものではないのであるから、他に想定される普通採ったであろう行為計算との比較いかんにかかわらず、これを容認したとしても法人税の負担を不当に減少させる結果となるとは認め難く、法人税法132条適用の前提条件を欠くものである。
(高裁)東京高裁平成14年(行コ)平成16年1月28日)(上告中?)
一三二条に持ち込まずに、二二条二項(無償による資産の譲渡)の認定
上記認定事実の下においては、アトランティック社における上記持株割合の変化は、上記各法人及び役員等が意思を相通じた結果にほかならず、被控訴人は、アスカファンド社との合意に基づき、同社からなんらの対価を得ることもなく、アトランティック社の資産につき、株主として保有する持分16分の15及び株主としての支配権を失い、アスカファンド社がこれらを取得したと認定評価することができる。そして、被控訴人が上記資産に係る株主として有する持分をアスカファンド社からなんらの対価を得ることもなく喪失し、同社がこれを取得した事実は、それが両者の合意に基づくと認められる以上、両者間において無償による上記持分の譲渡がされたと認定することができる。
両者間における無償による上記持分の譲渡は、法22条2項に規定する「無償による資産の譲渡」に当たると認定判断することができる。尤も、上記「持分の譲渡」は、同項に規定する「資産の譲渡」に当たるとすることに疑義を生じ得ないではないが、「無償による‥‥その他の取引」には当たると認定判断することができるというべきである。すなわち、上記規定にいう「取引」は、その文言及び規定における位置づけから、関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念として用いられていると解せられ、上記のとおり、被控訴人とアスカファンド社の合意に基づいて実現された上記持分の譲渡をも包含すると認められる。そして、本件において、法22条2項に規定する無償による「資産の譲渡」又は「その他の取引」は、遅くも、アスカファンド社により引き受けた増資の払込みがされた時に発生したと認められる。