第1章 租税実体法の本質
◆租税法をめぐる理論的問題
租税法律主義・・・・・国民の権利救済→ 調整 ←租税公平負担の原則・・・・・財政収入の確保
の問題
◆租税実体法・・・・・課税要件を直接規定した法規
租税法律主義・・・・・納税者の財産権の保護
対立
租税公平負担の原則・・・・・課税行政庁の財政収入の確保の主張
◆租税法の解釈・適用
法的視角から捉えようとする立場→ 相克 ←経済的視角から論じようとする立場
◆問題点
@ 租税実体法はどのような基準で解釈・適用すべきか?
A そもそも租税実体法は、誰のためにあるのか?
B 租税法律主義と租税公平負担の原則とが対立した問題についての理論的解決方法は?
第1節 租税実体法の意義
(1)租税実体法とは
租税債権債務関係
を成立させる課税要件を規定した法規=課税要件法
租税手続法
**広義:租税債権の消滅原因や担保等の租税債権債務に 関する実体的関係を規定する法規も含める
法律の規定する一定の課税要件を充足
租税債権債務関係成立
給付請求権として具体化 ※行政権の関与によるもの ではない
(2)課税要件とは
@課税権者・・・・・・・国または地方公共団体
充足により 納税義務の成立という法律効果
A納税義務者・・・・・何人が納税義務を負担するか
B課税物件・・・・・・・何が課税の対象とされるか
C帰属・・・・・・・・・・・誰に課税物件が帰属するか
D課税標準・・・・・・・税率を適用するため、
課税物件を金額又は数量で示したもの
E税率・・・・・・・・・・・税額算出のため課税標準に適用される割合
⇒ 課税標準は所得の金額
法人税 【益金】−【損金】
租税実体法に対する研究は
主として課税標準となるべき個人または法人の「所得」とは何かを追求すること
法人税たる実体法を 考察
法人税法22条 @「益金」とは何か?
A「損金」とは何か?
法の定めた要件を充足していない場合⇒ 租税債権は発生しない⇒ 納税義務は生じない
法の定めた要件を充足していない場合⇒ 更正・決定の課税処分⇒ 違法処分⇒ 取消
*課税処分が適正か否か・・・・・行政法規に定められた通りか否か法適合性の見地から判断
租税実体法における課税要件の研究
※裁判規範とされるのは、 私法法規・・・・・訴訟事件の裁判によって初めて強制される 行政法規・・・・・行政権の行使により国家に対して義務づけられるため、 その行政権行使の適否・効果が訴訟で問題となる場合のみ
第2節 租税実体法の解釈・適用をめぐる経済的基準説と法的基準説との相克
(1)法律の規定は、その性質上一般的・抽象的・・・・・適用に当たり解釈が必要
◆租税実体法の場合
租税法の特質に基づく解釈・適用に特異性
租税実体法の対象である経済取引が極めて複雑 かつ、絶えず流動変遷
経済生活の現状のすべてに対処する立法化は著しく困難
・・・・・解釈原理・方法論等に種々の見解が対立
◆租税実体法の解釈・適用はいかにあるべきか
租税法律主義と租税公平負担の原則という租税法における二大原則の具体的調整の問題
従来・・・・・
行政法規 行政庁に対する行政規範的なものとして制定・・・・・強調
司法作用における裁判規範たる性格を併せ持つ・・・・・稀薄
租税実体法の理論的研究の遅れ・租税法が法律であり
法律学の一分野であるとの認識に欠けていたこと
・・・・・法解釈学方法論の探求が緊急不可欠
納税者自身に対して申告に際しての行為規範⇒法的視角に基づく租税実体法の解釈の必要
(2)法的基準説と経済的基準説との鋭角的拮抗
|
経済的基準説 |
法的基準説 |
意義 |
税法の対象とする所得概念が そもそも経済的概念 本来経済的視角においてのみ捉えることが可能 会計学・簿記の視角から捉えようとする考え方 |
税法の対象とする所得概念が もともと経済的概念であったとしても 税法という法律に取り込まれた以上法的概念 法的視角において捉えるべきことを前提 法律学の視角から考察しようとする考え方 |
基本原則 |
租税公平負担の原則 |
租税法律主義 |
目的 |
国家財政需要の充足 |
納税者の財産権を保護 |
法人とは |
法人税の対象たる法人は個人とは異なって 営利を目的として擬制されたもの 常に経済的合理性に基づいて行動 経済的視角が妥当 |
法人の存在価値は法がその社会的な必要を 認めて人格を付与し実在化したもの であるから社会的作用の見地から意義づけ |
極論で 対比 |
極端な経済的基準説 税の対象たる経済的取引が複雑流動的であることから法律を以ってすべてを規定は困難 租税が国家の財政需要の充足 法律がなくとも、すべて国民の公平な負担という原点に立脚 公平負担の原理を持って法の代替作用 公平負担の原則によって租税を解釈・適用 すべて経済的・実質的に観察 |
極端な法的基準説 租税法はそれ自体において自己完結的なものとして整備体系化されるべき 法律に規定していなければ、税金を払う必要はない 刑事法の罪刑法定主義と同視 厳格解釈を基礎・・・・・類推解釈を否定 「疑わしきは納税者の利益に」解釈 |
判例研究 |
判例が自己の見解を符節する限りにおいてのみ 権威付けとして利用 |
総合的判例研究が必須 |
(3)両説はそれぞれ片面的見方【松沢説】
国民の財産権・・・・・法に依って与えられたもの・法は国家社会の向上発展を目的
国家社会の発展と調和すべき
⇒租税法律主義も公平負担の原理も本来調和すべき
*租税法の解釈・適用にあたっては
租税法律主義・・・・・・・・公平負担の原理
第3節 租税実体法の本質的機能
課税庁の行為規範 |
納税者の行為規範 |
裁判規範 |
賦課課税方式のもとでは 妥当性あり |
申告納税制度 |
すべて「法律上の争訟」は 司法裁判所に |
課税庁の行為規範として財政需要の充足のために 国民から租税を徴収するという行政作用に根拠 |
納税者が納税申告納税をする際の拠り所するのは実定租税法規 租税法規は納税申告をする者の申告にあったての行為規範 |
課税庁と納税者とで、法の解釈・適用をめぐっての紛争解決のための裁判規範 税務訴訟も法律上の争訟に関するものとして司法裁判所の定めたルールによる 法の支配の見地から行政処分の違法性の存否を審理判断 |
租税の持つ趣旨・目的・租税負担公平の原則 国の財政需要のための資金は国民が公平に、担税力に従って分担・拠出 合目的に解釈すべき |
納税者の申告にあたっての行為規範のみを強調した場合、経済生活における予測可能性と関連して、租税法律主義による法の自己完結性・厳格解釈を強調することが基本的解釈 |
違法とは、当該行政行為がその根拠として定立された法規に準拠せず違反 法適合性を有するかどうかは、憲法の法体系の下に定立された租税法規の規定に反しているか否かの観点から決定 租税法・課税要件法は行政行為に対し適法か違法かを判定するための裁判規範 |
形式的な文言に拘泥されず 実質的経済的意義を基準とすべき |
税法中の課税要件を正当に認識適用 |
成文によらず公平負担の原則のみを以って法解釈を行うことは許されない |
租税実体法としての課税要件事実の把握の必要性 租税裁判の本質が租税法秩序の維持を図って租税正義を実現 租税法律主義と公平負担の原則との調和を図る機能的目的を明確に認識しうる |
解釈通達 ⇒ 法規ではないから裁判の基準とはなりえない
裁判所もそれに拘束されない
正しい解釈がなされているという限りにおいて裁判の参考になりうる
行政内部・・・・・法の統一解釈によって実施された行政作用の当否をめぐって
法解釈に争い
最終判断は
最終判断は、 *判例は法の定立を促し、
通達解釈に影響を及ぼす
*行政解釈通達の判例により
妥当性が反復確認・改正
司法裁判所の示した判断=判例の研究⇒ 総合判例研究が必要不可欠
(2)租税法の機能
財政需要の充足⇒ 法律の定める要件に該当する者すべての者に対し租税として課する
◆法律学としてのレベルにおいて租税法の機能を論ずる場合
財政収入の確保という行政庁の行為規範の面において行政法学的視野が要求
財政収入の確保が一面に納税者の財産権に対する形式的侵害
納税者の権利保護の視角において
憲法に基づく租税法律主義の見地に従い法律の定める要件を明らかにする必要がある
租税が国または公共団体の経費を支弁するという目的から
その構成員全員に平等に負担するという租税法の一般原則たる租税負担の公平の原則
*経済的機能・効果の予測は、法律学としての租税法学の直接の対象ではない
◆税制の持つ機能(景気政策・特定産業の保護という産業政策・土地税制等)の効果
専ら特定の政策目的を実施するための方法として租税特別措置法という法形式による
臨時的・短期的性格であるが
措置法によって租税法体系を歪めてはならない
第4節 租税法律主義と租税公平負担の原則との関係
(1)理論的に法の解釈と適用とは概念上区別すべき
税法の解釈・・・・・租税法規の中にある法的意味を理解すること
税法の適用・・・・・具体的事実につき租税法規をあてはめて一定の法律効果を生ぜしめる
◆租税法律主義の本質
租税法は、租税法律主義(憲法84条)を基本原則とする
経費を支弁するために
一方的に・強制的に財産を徴収
国民の財産権に対する侵害
法治主義もとでは国会の定立する「法律」によることを要する
法律によって定められるべきことが要請
租税の種類・根拠
納税義務者・課税物件・課税標準・税率
*一般国民の経済生活の安定が図られ、経済活動の予測可能性がえられる
租税に関する事項の細目に至るまでも 一義的に規定することは困難であるから、 法の委任による具体的・細目的な命令形式 をとることは差支えない 経済活動の変化に応じて 担税力に即し公平・確実に課税
⇒
しかし、包括的委任によって
法の実質的設定権限を一般的に行政庁に委ねる政令・規則は憲法上許されない
厳格な租税法律主義を貫けば、
租税実体法それ自体において自己完結的なものでなければならない
実状とのギャップあり
◆税税公平負担の原則の本質
租税の賦課は公平になさるべき・・・・・租税制度存立の根本原則
租税は直接の反対給付を伴わないものと解される
※水平的公平:同じ経済状態(所得水準)にあるものは同じ程度の負担であるべき
※垂直的公平:経済状態(所得水準)が異なる場合にはそれに応じて負担の程度も異なるべき
単に立法段階における原理のみならず
法の解釈・適用においても作用するものと解すべきであり、重要な役割を持つ
法における公平 = 正義の具体的顕現 法の最高の理念
国民に負担を課することを専らの目的とする租税実体法の全体構造は、公平を当然に予定
たとえ明文の規定がなくても
「実質課税の原則」 「実質主義」(経済的観察方法) ⇒ 公平負担の原則の表現
負担の公平を図る
租税実体法の対象たる経済的実態が、複雑多様であり、
しかも絶えず流動変遷しているため、
租税法の制定は、現実の経済の実態に対処するものとしては不備不完全
租税法
*私法上の民・商法の規定が不可欠の前提要件 ・・・・・・その概念・文言の借用 *経済取引に関係する他の分野の規定・用語を借用 ・・・・・・税法の規定が必ずしも明確でないことも
法律の形式上の文言にとらわれることなくその実質を考慮すべきであるという考え方
経済的実質的目的による解釈の必要性⇒ 公平負担の原則による当然の要請
(2)租税法律主義による法の明確化の要請が専ら納税者側から、自己の財産権を守るという形において主張
租税制度存立の基礎ともゆうべき公平負担の原則が課税庁側から法の適正な執行者の立場において租税法の基本理念として強調された
実質的に同様な経済的効果を伴う場合には
公平負担の原則に基づき同様な課税を行うべきとする立場
◆租税法律主義に基づく経済生活の法的安定と予測可能性の必要性を強調
解釈・適用について疑義があれば、厳格に解釈し、疑わしきは納税者の利益に解すべきと説く立場
◆法解釈の最終判断権をもつものは、課税庁ではなく、納税者でもなく司法裁判所
法の解釈とは、法規の意味内容を、闡明・確定し、その妥当な範囲の精密な限定をいう
従って、法の形式に示された価値体系の具体的な実践的意欲的な作用である
法につき価値観が対立する以上は、解釈者の主観的意図により法に幾つかの異なった解釈が生ずるが、法が客観的な価値法則に従って法解釈すべきことが期待・・・・司法裁判所
あらゆる法規は、究極のところ裁判所による法解釈によって
最終的に妥当する正しい法の解釈とその適用を確保
裁判所は最終的解釈者として、客観的な価値法則に従い、法律上の概念を操作して
租税法を実現し保障することにより租税法秩序を維持し正義を実現する
何が租税正義に合致するものかどうかの点に帰することとなる
(3)法律の解釈は法律内容を実現する一過程・・・・・法適用の前提をなす
法の解釈・・・・・・法の外形的存在たる文言から感性的に得られたものとし外形的存在によって規制される
法の目的論的解釈⇒ 法の意味内容につき外形的存在である文言が法の趣旨の具体的内容の反映であることを看過する
法の形式解釈 ⇒ 法の趣旨たる法律秩序を看過する
いずれかに偏り解釈することは、妥当ではなく、法の表現された外形的存在である文言から法規範を創造する価値判断規範創設作用、単なる法の客観的認識作用ではない
ともに租税正義に奉仕
本来矛盾しないもの
法の外形的存在としての 形式的側面 納税者のための 経済的取引における予測可能性 法的安定性の確保 公平が正義と表裏をなす 法の原理 法を法として支えている 法の基礎としての条理 法の一般原則 法自体に当然内包する価値概念 形式的に法を解釈・適用 結果が著しく正義に反する 妥当に解釈するための有効適切な手段 妥当な調和 全体を総合的理解 租税法秩序の維持 租税正義の実現を図る 租税法の 正しい法解釈 租税正義の実現のための 具体的内容として 実質的側面 租税制度自体の成立の 基礎的理念 租税法律主義による 租税法規の欠缺を補う 法の内容を補完する解釈原理としての機能に使命 租税要件法の不備を補完 実質課税の原則 税法上に内包する条理として是認されてきた基本指導理念
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